研究概要

□ 地盤材料・防災に関する研究

短繊維等を用いた液状化対策

 東日本大震災、熊本地震、大阪北部地震や北海道胆振東部地震の発生において、数多くの液状化被害が確認されています。今後、南海トラフ地震等の巨大地震の発生も危惧される中、地球温暖化による海面上昇にともなう地下水位の上昇による液状化の危険性のあるエリアの拡大も懸念されています。そのため、液状化対策に関するさらなる研究や検討は益々重要となります。
 このような背景の中、短繊維を混合した混合土は、強度や変形特性を改善できることが確認されており、新しい液状化対策工法として期待されています。本研究では、短繊維の性状(特に繊維径)と長さに着目し、混合率の影響、土質材料中の細粒分(シルト分)含有率に着目し短繊維混合土の液状化特性に及ぼす影響について実験的な検討を行っています。

 

リサイクル材の液状化強度予測

 地震大国である日本は多くの液状化被害を受けており、今後も南海トラフ地震・首都直下地震などの大規模地震が近い将来に発生する可能性があります。液状化による被害を未然に防ぐためにも、地盤改良等の対策を行っていく必要があります。しかしながら、地盤改良工法は、セメント系の固化材を用いることが一般的であり、経時的に固化をしていく改良土の液状化強度を推定する必要が生じます。通常、液状化強度の推定には、繰返し三軸試験装置を用いた評価が行われますが、載荷能力の関係上、低改良の処理土であっても養生固化が進むと液状化強度を求めることが難しくなる場合があります。そこで、本研究では、非排水繰返し三軸試験では液状化強度の判定が難しい固化改良土について、簡易に改良土の強度判定ができるコーン指数あるいは一軸圧縮強度から液状化強度を予測する手法について検討を行っています。

竹材を用いた液状化対策

 近年、生態系や環境問題となっている放置竹林において、伐竹による竹の土木分野での有効利用は、大量に消費できることから期待されています。また、竹は木材と比較して成長力が強く、軽量かつ加工性も高いことから利用価値のある資材です。さらに、弾性的で曲げ靭性が高い材料でもあります。また、近年、SDGsによる環境意識が高まる社会背景から、環境に配慮した工法として、自然素材を活用した液状化対策工法の開発が注目されています。そこで、本研究ではすでに多くの実績のある丸太打設液状化対策工法を参考に、木材では得られない竹材の靭性やドレーン材としての機能に着目し、竹杭打設による液状化対策工法を考案しました。現在は、竹杭打設による液状化対策工法の開発を目的に小型振動台による模型振動実験による基礎的な検討を行っています。

豪雨時における特殊土斜面(竹林斜面も含む)の安定性の検討

 近年、地球温暖化やヒートアイランド現象の影響により時間雨量が50mmを超える集中豪雨の発生回数が増加しています。このような集中豪雨の影響を受け、土砂災害の発生回数が増加し毎年約1,000件もの土砂災害が発生しています。また、我が国には高有機質土をはじめ、関東ローム、シラスおよびまさ土等に代表される特殊土が多く分布しており、気候変動によりこれら特殊土で構成される斜面において災害が生じる可能性が指摘されています。そのため、特殊土地盤と斜面崩壊の関係性を把握しておくことは、災害時の被害の減少や防災対策の観点から非常に重要であることから、本研究では特殊土地盤に着目し、降雨模型実験と一面せん断試験を用いて斜面崩壊挙動のメカニズムとその対策について検討を行っています。

□ 地盤環境・リサイクルに関する研究

ゴムチップパック(TCP)による海面埋め立て処分場の保護工法の検討

 我が国は、国土が狭小であるため大都市近郊では、処分容量が多く、跡地利用が期待できる海面埋立処分場の建設が進められています。海面処分場では遮水層の規定値(層厚5m以上、透水係数10⁻⁷m/s以下)を満たす必要があり、遮水層として原位置の沖積粘土層をそのまま利用する場合が一般的です。しかし処分場内の沖積粘土層においては、この規定遮水層厚を十分に満足するとはいえない場所も存在すると考えられています。そこで、本研究では熱利用の割合が多く地球温暖化が懸念されている廃タイヤを緩衝材として利用する新しい工法を考案しました。本工法は、廃タイヤチップにより沖積粘土層上部を保護し、遮水層の規定値とその機能の低下を防ぐ手法であり、現在は、大型水槽を用いたモデル廃棄物の沈設実験により、タイヤチップをパック状(タイヤチップパック))にしたものの敷設による粘土層地盤への保護効果の検証を行っています。

新しい遮水材の開発

 我が国のため池は、老朽化、底泥の過剰堆積、豪雨による堤体の決壊、地震外力によるクラック発生などため池としての機能が損なわれる多くの問題を抱えています。そこで、これらの問題を解決すべく原位置発生泥土とベントナイトを混合し、遮水性能を有するソイルベントナイトに着目しています。しかしながら、底泥を安定処理した改質土は一般的な土壌と違いpHが高く、ベントナイトを混合させても主要構成物であるモンモリトナイトが溶解・変質し、膨潤性能が得られにくいという問題を抱えています。そこで、この問題に対して添加材を加えることでpHの改善を図り、アルカリ性を呈する改質土に自己修復性を持たせた高機能な遮水材の開発を行っています。

焼却残渣の有効利用

 年間約400万トン発生する一般廃棄物焼却主灰(以降、焼却主灰)は、重金属等を含有しているため、管理型処分場において埋立処分されています。現在は、分別・リサイクルが進み処分場の残余年数こそ微増傾向にあるものの、依然として残余容量は減少しており、処分場の新規建設も困難になってきています。そのため、処分場の延命化は重要な課題であり、今後は循環型社会に相応しい循環資源戦略が必要です。また近年、気候変動の緩和策の一つとして二酸化炭素(CO2)の回収と利用技術の開発も重要な課題となっています。このような背景の中、本研究ではこれまで、焼却主灰のオンサイトエージングでの安定化促進を目的として、CO2含有ガスを利用した促進炭酸化処理について検討を行っています。現在は、炭酸化処理により改質した焼却主灰の地盤材料特性を明らかにし、一般廃棄物焼却主灰の土木資材への適用性について検討を行っています。

上向流カラム試験のJIS化に関する研究

 土壌汚染対策法の改正に伴い、自然由来重金属含有土壌を建設事業で取り扱う事例が増加しており、汚染の判定や対策費用の負担など種々の問題が顕在化しています。その打開策の一つとして、種々の特性化試験(本研究では特にカラム通水試験)を用いた環境影響評価手法に注目が寄せられています。2019年10月に、日本の主導によりカラム試験の国際規格ISO 21268-3が発効されたのを受け、今後は、ISOカラム通水試験の実務での具体的な活用方法の提示が重要となります。
このような背景を踏まえ、本研究ではカラム通水試験による汚染土壌の環境影響評価判定手法を提示することを最終目的として、ISOで許容された試験範囲の影響の確認、汚染物質の溶出挙動データの蓄積、および、実環境条件に設定した場合の汚染物質挙動を再現できるモデルの構築を行っています。

スラグ混合型石炭灰混合材料の材料評価

 製鉄所から副次的に発生する製鋼スラグは、年間約1400万トン生成されています。同様に、火力発電所から副次的に発生する石炭灰も年間1200万トン発生しており、これら排出量の多い副産物は、定常的な有効利用を推進する必要があります。現在、石炭灰を用いたリサイクル材である石炭灰混合材料は、主に下層路盤材としての利用が進められています。しかしながら、利用用途の拡大に向け、今後は上層路盤材や土木資材への適用など更なる検討が求められています。そこで本研究では、石炭灰混合材料の骨格構造の強化や石炭灰の重金属等溶出抑制効果、CBRやすりへり減量の改善を目的として、石炭灰混合材料に製鋼スラグを混合した石炭灰・製鋼スラグ混合材料(破砕材)の開発を行っています。

□ 地盤改良に関する研究

再生石膏を用いた地盤改良と地盤膨張特性の把握

 建築物等の解体により発生する廃石膏ボードの排出量は年々増加しており、2030年には約180万トンに達することが予想され、再資源化の促進が喫緊の課題となっています。このような背景の中、当研究室では、廃石膏ボードを中間処理により破砕・分別処理した再生石膏粉の地盤工学的利用について一連の研究を行っています。これまでの研究において、再生石膏粉の改良効果や環境安全性については明らかにされてきましたが、再生石膏により改良した地盤材料の膨張挙動については十分明らかにされていないのが現状です。そこで、現在は、再生石膏粉(再生半水石膏及び再生二水石膏)を用いた改良土や路盤材の膨張特性について実験的検討を行っています。

 

中性固化材の開発

 国土交通省が定める建設リサイクル推進計画2020によれば、建設工事によって発生する建設発生土は、高い再資源化率の維持や循環型社会形成への更なる貢献として、「質」を重視するリサイクルが求められるようになりました。建設発生土の中でも、シールド工事や浚渫工事において発生する高含水比かつ粘性土を含む建設発生土(以後、低品質発生土)の有効利用について検討する場合、低品質発生土をこれから改良するケースと、搬出等のためにすでに改良された改良土を利用するケースの2通りが考えられます。前者の場合、環境意識の高まりにより植生や生態系に与える影響の少ない環境負荷低減を考慮した中性域での改良が求められ、後者の場合は、安定処理等の改良に伴いpHがアルカリ側にシフトしていることから、現場 で利用するためには改良土のpHを中性にする必要があります。また、降雨等の影響により改質効果が失われ泥濘化する現象(以下、再泥化と定義)に対する抵抗性を有するために、改質土の再泥化抵抗性を検証する必要があります。本研究では、前者に主眼を置き、中性の性質を有する再生石膏に特殊添加材と混合した新しい中性固化材の開発に着手し、その改良効果について検討を行っています。

 

戻りコンクリートを用いた新しい固化材の開発

 戻りコンクリート(戻りコン)とは、工事現場で使用されなかった余剰分のレディーミクストコンクリートの総称です。戻りコンが生じる主な要因として、建設会社が設計量からの余分量をみて生コン事業者に発注していることが挙げられており、その排出量は年間約100~200万㎥に及ぶと推定されています。近年、戻りコン処理や廃棄費用は、有償化が進んでいる地域では工事受注者が負担しています。しかし、未だ多くの地域では、出荷工場が負担しているのが現状です。そこで本研究では、戻りコン中の未水和セメント分を利用し、地盤改良材の開発を目的として研究を行っています。

 

高有機質土のセメント固化に用いる混和剤の開発

 プレボーリング拡大根固め工法は、根固め部を拡大掘削することで高支持力が期待でき、設計上杭本数の軽減化を図り杭材料費の削減・工期の短縮に繋がっています。この工法は、杭支持力確保のため杭先端根固め部にセメントミルクを注入し支持層と杭を一体化する手法が取られています。しかしながら、対象地盤の土質試料が有機分を多く含む場合、固化反応が阻害されてしまい、所定の強度発現が生じないことが懸念されます。また、3日養生圧縮強度が確認されるまでは根固め部に十分なセメント分を確保し品質を担保しているため、多量のセメントを使用することでコスト高などの課題が顕在化しています。そこで本研究では、有機分を含む土質試料の強度確保を目的に添加剤の適用の検討を行っています。

 

竹チップを用いた高含水比地盤材料の改良

 西日本から東日本へ各地に生息領域を拡大している竹は、繁殖力と竹林従事者の減少による放置竹林の問題から伐竹後の有効利用法が求められています。当研究室では、これまで竹の高い吸水性に着目して、ため池の高含水比底泥と混合することで運搬可能にし、さらにセメントによる固化改良後では、堤体や護岸材料、盛土材料などへの有効性を示しています。また、この竹チップ混合固化土は、竹チップの吸水と引張り補強効果により一軸圧縮強さが増加し、延性的破壊挙動を示すことも確認しています。しかし、竹チップ混合固化土内の竹チップの配置状況や形状についての強度発現の要因は明らかとなっていません。そこで、現在、竹チップ添加に伴う竹の混合状態に着目し、地盤改良効果への影響について検討を行っています。

 

□ 舗装に関する研究

竹チップ舗装材料の耐久性の検討

自然土を材料にしている土系舗装は、歩行性、景観性、透水性、保水性に優れています。この特性を活かして、土系舗装は公園や遊歩道に多く使用されています。しかし、環境変化に弱く、経年劣化が早く耐久性に問題があることが指摘されています。特に寒冷地においては舗装材の凍結・融解によりひび割れや剥離が発生する問題が報告されています。当研究室では、これまでに土系舗装材料への竹チップの適用により、引張り補強効果による材料の耐久性の向上と防草効果を明らかにしており、これにより寒冷地においてもひび割れの発生の抑制効果が期待できます。そこで現在は、寒冷地において凍結・融解を受ける際の竹チップ舗装材料の耐久性について実験的検討を行っています。

ウッドチップ舗装材の竹チップの適用性

歩行者舗装のウッドチップ舗装は、ウッドチップとアスファルト乳剤を混合した舗装で、クッション性が良く、歩行者の膝への負担の軽減する効果から着目されている舗装です。一方、竹は繁殖力が強く、太陽光を遮断することから在来の植生を枯らし、さらに放置竹林が地滑りや土砂崩れを発生させ、社会問題となっています。そのため、竹林整備が行われ、伐竹後の竹の有効利用が求められています。当研究室では、これまでチップ化した竹は、靭性効果、防草効果、吸水効果を有していることを明らかにしています。そこで現在は、アスファルト乳剤と竹チップを混合し、機能を向上した新しいウッドチップ舗装材料の開発を行っています。

アスファルト舗装の長寿命化

我が国では、高度経済成長期に近代的なインフラが集中的に建設され2020年代以降に一斉に寿命を迎え、その利用に支障をきたし、社会問題化しています。インフラの中でも道路舗装の90%を占めるアスファルト舗装は、供用開始後に大型車両の通行や雨水などの影響によって耐久性が損なわれ、舗装表面にひび割れやわだち掘れ等が発生し機能低下する構造物です。特に、ひび割れからの雨水浸入よる路盤の支持力の低下は、アスファルト舗装の耐久性に大きな影響を与えるとされています。このように路盤は、道路の寿命に大きく影響を及ぼす重要な役割を有しています。しかし、維持管理費用削減、補修費増、工事に伴う通行止めなどの影響により補修工事において路盤までの打ち替えを行う事例は少ないのが現状です。近年、路盤補強に着目した技術開発が進められており、特にジオテキスタイルを用いた路盤補強が注目されています。ジオテキスタイルは、これまで、道路舗装への軟弱路床対策として研究が進められ、現在は実際に道路舗装に使用されていますが、路盤補強として実際に使用される例は少なく、ジオテキスタイルの道路路盤への適用に向けた研究が必要不可欠な課題です。そこで本研究では、路盤にジオテキスタイルを敷設し、路盤の支持力を向上させ、アスファルト舗装を長寿命化させるために小型土槽を用いた載荷試験により検討を行っています。

雨水が浸透する路盤材の支持力改善に関する研究

アスファルト舗装は供用にともない性能が低下し、ひび割れやたわみが発生し、劣化が徐々に進行する構造物です。また、この劣化の主要因として雨水浸透による路盤支持力低下が指摘されています。路盤は、雨水浸透により路盤内の細粒分が抜け出し間隙構造が変化することで支持力が低下し、路盤が変形します。そのため、アスファルト層にリフレクションクラックが発生し、舗装の劣化が進行すると言われています。しかし、供用中の路盤内を観察するのは困難であり、詳細に調査・分析を試みた例も少なくありません。そこで本研究では、路盤の雨水浸透による支持力低下挙動について検討を行っています。